イノセントワールド
2007-01-19
中東情勢の取材に向けて渡航する前日、僕は空港近くのホテルの1室で、FM放送の音に耳を傾けていた。
時折、成田に発着する航空機の機影を窓越しに眺めながら、取材スケジュールのことを考えていた。
その時、ラジオから不意に流れてきた曲を聴いたとき、僕は記憶のかなたにあった彼女との思い出の日々が蘇ってきた。
そして、突然、僕も彼女も、本当はお互いに愛してはいなかったのだということに気づき、僕はうろたえ、頭が混乱してきた。
1990年代に入りバブル経済にも陰りが見え始めてきた頃、僕は関西の大学に通っていた。
学生時代、将来に対する目的も展望も見えなかった僕は、同じボランティアサークルの1学年後輩だった彼女と出会った。
彼女は、長い黒髪を靡かせ、屈託のない無邪気な笑顔が特徴的な女性だった。
僕は彼女を数ある後輩の一人として、そして彼女も僕を先輩の一人として見ていたに過ぎなかったが、僕達は、サークル活動のとき以外にも時々二人で会って話をするようになっていた。
大学の仲間達の話題は、当時全盛だったデ