大事なものは大事にしろ 1
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不安と緊張と興奮のないまぜになった表情を浮かべる貴島友一は、傍らに寄り添う妻の顔を見た。
智香のおっとりとした清楚な顔には、友一と同種の、しかしどちらかと言えば不安と緊張が主の表情が浮かんでいる。
薬指に指輪の嵌まった左手が、不安そうに彼の腕に添えられている。
夫の友一が二十六歳、妻の智香が二十五歳の二人は、幼い頃から互いだけを見てきた幼馴染同士であり、
そのため、二十代も半ばに達した今、軽い倦怠期を迎えていた。
お互いから新鮮味が失われ、互いに異性としての魅力を感じなくなりつつあるのである。
彼らはその倦怠期を打破するため、友一の発案により、とある試みに臨もうとしているところである。
円らな瞳が真っ向から友一を見据えた。そこには不安と恐怖があった。
乗り気でない妻を押しきる形での決定だったため、友一の心はずきりと痛んだ。
「なあ、智香、どうしても嫌なら……」
思わず口にしかけた言葉は「いいの」というやや強い言葉に打ち消された。