忌むべき日常行事_1

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2012-11-06

朝のお見送りは、お実にとって忌むべき日常行事だった。 
 屋敷の玄関前に旦那様の永田巌、若旦那様の虎男、お嬢様の枝美、そして三人の男の子が並んでいる。彼らを見送るのは奥様の稲、若奥様の豊子、そしてお実を含む三人の使用人だった。 
 お実は枝美お嬢様の晴れやかな女学生姿を見るのが嫌だったのである。カトリックの女学校に通う十七歳の枝美は、抜けるような白さのブラウスと色鮮やかな紺碧のスカートを身にまとい、大きな臙脂色のリボンで髪を結っている。足元を飾る黒革の靴は、昨晩お実が磨いたものだ。 
 一方、お実はと言えば手拭いの姐さんかぶりで、着ている服は色あせた絣の着物とつぎはぎだらけのモンペなのだ。むろん、奉公先のお嬢様とそこの使用人となれば当然の対比で、お実も身のほどをわきまえてはいたが、どうしても我慢ならないことがひとつだけあったのだ。 
 お実を見下す枝美の視線である。まるで家畜を蔑むかのようなその目つき……。 
(なにもそこまで見下さなくてもいいではないか) 
 お実

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