「念友との初夜 Ⅰ」
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《男の契り》
「初夜」とは云っても実際には 五月末の昼下がり数時間のことだった。
私は‥彼Hにリードされて 七十歳を過ぎて初めて、しみじみと男の肌を味わうことが出来た。聊かの緊張はあったが 格別の、ドキドキするような昂奮や 上気して無我夢中になることも無かった。
ただ久し振りの 素肌の感触が快く、これまで永年‥あぁかこうかと想像していた 男同士の身体の結び付きが、具体的な現実になり 疑問に思っていた殆どが腑に落ちた。
事実‥全裸でヒドイ形もしたが 自己嫌悪に陥らず、全く‥後悔も してい無い。
私は 自分のバイの性向について、若いときから 意識はしていたが、男性に対する興味には のめり込むと社会的に脱落者になる恐怖を感じて、つまり‥臆病で これまでその興味を抑圧して来た。
先に訣別した50年来の学友とも そう云う意味では動機不順での接触だったが、せいぜい普段は 時々会って映画を観たり、食事をしながら 駄弁るだけだった。
だから山歩きの夜‥ 温泉宿で抱き合って寝たのだってハップニングで、太腿を摺り合わせたとはいえ