勝気そうに引き締まった口元
2012-09-20
『え?!』俺は思わず心の中で唸った。
今まで俯いてばかりいた菜緒が、皆の前へ一歩出ると、しっかりと顔を上げた。
毅然とした表情でじっと正面を見据えている。
美しいと思った。俺はこんな最悪な状況だというのに、素直に妻を美しいと思った。
「菜緒です!よろしくお願いします!」よく通る声が静かな室内に響き渡った。
背筋をピンと伸ばし凛とした美貌を引き締めながら、ゆっくり男達を見回す。
目が合った男達は萎縮し、ある者は慌てて視線を外し、またある者は顔を赤らめて俯いた。
一番前に居た男などは、緊張したのか噴き出た汗を必死に拭っていた。
菜緒の堂々たる態度を前にして、言葉を発する者は誰一人居なかった。
『このまま終われ、頼む、終わってくれ!』そう願った。
しかし、それは空しい願いだった。静寂を破ったのは、やはり田近だった。
「さすが!クールビューティー菜緒!今日も健在だねぇw」
田近は一番前の男を指差した。