20160109-ラブコメディ・ラプソディ
2017-02-27
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その夜は、雪が降っていた。私中根伸一は、バス停に向かってオーバーのフードを被り細い雪道を路地を歩いていた。ふと、どこからともなく匂ってくる香水に立ち止まる。すると、前から歩いて来た女性に気づいた。道幅は雪で狭くなっていてすれ違うことが出来ない。仕方なく、私は手前の通りまで引き返した。
「すみませんね」
私は京都風のイントネーションに気づき、フードを少し上げて女性を見る。そこには、美しい女がいた。長い髪を雪に濡らし、胸がぱっくりと裂けている洋服を着て、見るからに寒そうに見えた。
「いいえ、お互い様ですから。気を付けてね」
私は柄にもなくそんなことを言った。
女が歩い行った方をじっと見ると、バーの看板が掛かっている店に入った。いつか行って見たい、そう思った。
私は、それからバスに乗り家に向かった。バスの中で、妻の言葉を思い出していた。もう、あなたといるのが、苦痛なの。私は、そのあと何も言えなかった。その前に言った言葉は全て消え去り、その言葉だけが残った。