僕だけのアフロデーテ
2017-10-08
一
「ねえ、先生。わたしを描いて」
辻茜はそう言って、美術室のドアから顔をのぞかせた。僕は筆をとめ、この珍入者に思わず目を細めてしまう。放課後の美術室が冬の夕暮れに包まれようとしている中、彼女は僕に歩みよった。
「辻君。君、突然どうしたんだ?」
「今のわたしを、残してもらいたくて」
その言葉に僕の胸は高鳴った。前々から描きたいと思っていた、この気品高い辻茜を。だが、その彼女の方から描いて欲しいと言っているのだ。僕はうれしさを隠して、さも平然と言った。
「いいよ、実は僕も静物画ばかりで飽きてたところなんだ」
「ありがとう。じゃあ、今からお願い」
僕は急いで新しいキャンパスを用意していた。だが、衣擦(きぬず)れの音がして振り返ってみると、辻茜はセーラー服の上を脱いでいる。シミーズの白が、僕を激しくあわてさせた。
「えっ! な、なに脱いでいるんだ!」
「なにって、描いてもらうのは裸に決まっているでしょ?」
「待て! 僕は裸を