風俗島
2006-07-25
「なぁ、風俗島って知ってるか?」
声のトーンを落としながら、マコトがそんなことを口走った五限の前の予鈴の八秒後。教室は六月の熱気で生暖かく、僕たちは十三歳で、どうしようもなく中一だった。
「橋本の上の兄ちゃんが高三だろ? その兄ちゃんの同級生が聞いた話らしいんだけどさ」
そんな又聞きの又聞きのような噂話は、とても簡潔だった。学校から自転車で五分で行ける瀬戸内海、その向こうに風俗島がある。骨子はそれだけだ。確かなことはそれだけだ。それ以上のことなど誰も知らない。当然だ。僕らは中一なんだから。そしてそれ以上のことなど確かめようもなく、それは当然のように、マコトと僕の間で脳内補完されていった。中一のうちにしなきゃいけないことなんて、せいぜいそんなことだけだ。
次の日、野球部の朝練を終えたマコトは坊主頭に汗を光らせながら、窓から二列目の一番後ろ、自分の席に座る僕のそばへやってきた。マコトの席は窓際最後列。クラスは女子十五人、男子十九人で、どうしてもどこかは男子男子で並ばないと数が合わない。小学校の時から好きだった石塚さんは、廊下側の最前列だった。