凛々しかった妻の変貌
2010-07-14
見慣れた街の風景が、列車の窓の外を右から左へと流れてゆく。
視界に入っては消えていく無数の家々の明かり。
この沢山の光のなかに、我が家ほど壊れきった家庭など存在するのだろうか。
藤堂博隆はそんなことを考えながら、今日も陰鬱な表情で会社帰りの列車に揺られていた。
「娘の世話があるので、残業は一切できません」
そう言って毎日定時に帰っていれば、さすがに上司の受けも最悪になる。
今日も自分の小さなミスを捕まえて延々怒鳴られたことを思い出し、彼はため息をついた。
地平線に沈む夕焼けのかすかな残滓が、彼の顔をわずかに照らす。
腕時計の針は、まだ午後6時を回ったばかりだ。
あと数十分もすれば、またあの家に帰らなくてはならない。
今はもう、自分のものではなくなったあのマンションに。
博隆はさらに気分が落ち込んでいくのを感じ、悪い想像を振り払うように、その両目を強くつぶった。
博隆の幸せの象徴だったあの家は「あ