「エイプリルフールの罠」
2004-09-04
ノックの音がした。
「お兄ちゃん、絢香だけど…」
続いて遠慮がちな妹の声。
「あ、ああ………入れよ」
俺は鏡を見て、自分の口元が緩んでいないことを確かめてから返事をした。
恐る恐るといった感じで部屋の扉が開く。
その向こうから姿を現した妹の顔には、不安と心配と苛立ちが混ざっているのが見て取れた。
まあ無理も無い。
俺がいつになく真面目な顔付きで「あとで部屋まで来てくれないか」などと言ったものだから、困惑しているのだろう。
ちらりと壁に掛かった時計を見やる。
時報にちゃんと合わせていれば、あと10分で今日も終わってしまうらしい。
これは急がなければならない。今日中に、これを済ませないといけないのだ。
「……で、どうしたの?」
絢香がいつになく、か細い声で言った。
「エイプリルフールの罠」
今日がエイプリルフールだと気がついたのは、会社から帰ってテレビを見ていた時だった。