第3幕:金曜日の予定
2007-07-08
ふたたび日本、もとい四国のどこかの、とある旅館の一室である。
窓越しに聞こえてくる風切り音は益々強くなり、窓ガラスを雨粒が打つ音までもが加わっている。
先ほどと違うのは、時間が2時間ほど進んでいるのと、2人ともそれ程不快そうな表情をしていない
のとである。それもその筈だ。なにしろ熱帯産のシャワーを全身に浴びてきたのだから。
2人にとって、ギリシャの重装歩兵の盾ほどに重要な役割を果たしていたビニール傘は、いとも
簡単に風によってオシャカにされた。
前衛的なオブジェと化した2本の傘は、そのまま道すがらにあったゴミの集積場へと放り込まれた。少し2人の心が痛む。
しかし、所詮は過ぎ去ったこと。未だ来ていないことと比べると、いま『高松市街図』を挟んで
布団の上に坐している浴衣姿の2人にとっては、ずっと瑣末なことだった。
もっとも、さっきから聞こえるのは唸り声ばかりで、議論らしい議論は為されていない。
世間で言うところの「行き当たりばったり」になりそうな予感である。