20201028-人形に捕らわれた男
2020-11-10
あでゅー 星空文庫 https://slib.net/a/18416/
(一)
「お母さん。私、受かったよ」
私は、嬉しくて母に抱き着いた。合格したのは、第一志望の理学部化学科。家から通える大学である。母も喜んでくれると思っていた。だが、母はおめでとうと、冷めた表情で言う。この時から、私の人生が大きく変わる。
「里美。あなたに言わなきゃいけないことがあるの。お父さんとお母さんは、離婚するの……」
その後の言葉は、私の耳には入らなかった。聞きたくないという気持ちが、働いたからだろう。
要約すると、私たちは離婚する。お前は、一人暮らしなさい。大学を卒業するまでは、面倒をみる。卒業した後は、一人で生きていきなさいというのだ。どうやら、お互いに好きな人ができて、その人と暮らしていくらしい。
突然、言われた私は、いやだ、いやだと言って、泣いて母にすがりついたが、その腕を払われた。父は、姿を見せず、電話だけで一言「ごめん」と言うだけだった。母の探してきたアパートに私の