奇跡の宴
2008-11-14
宴が始まる少し前、俺は会場の最終チェックをする為に部屋を出た。
旅館の方に任せておけば良いとは思えど、仕事柄最終的な確認は
自分の目でしないと気が済まないのだ。
自分の貧乏性に苦笑しながら会場に向かう途中、
「○○さん・・・?」
と背後から女性に呼び止められた。
振り向くと、上品な中年女性が立っている。
どこかで逢った事が有る。俺の記憶が囁くが、名前と素性は出て来ない。
俺が途惑っていると、女性が微笑しながら話し出した。
「何年振りでしょう...
私もすっかりおばあさんになっちゃったから解りませんよね。
ご無沙汰しております。詩織の母です。」
瞬間、あどけない少女の笑顔が閃く。
白血病に冒されながら、精一杯生き、微笑みながら逝ったあの少女。
「これは!こちらこそ、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです。」
溢れるように戻ってくる記憶。
懐かしさと哀しさに、ちく、と胸が少し痛んだ。