帰省した軍人
2009-06-22
夕暮れの道を駅から歩き、「ただいま」と玄関を開けたら、妻の雪乃が迎えてくれた。
質素なブラウスにもんぺ姿の妻・雪乃。窓ガラスには飛散防止の半紙の帯が貼られている。
俺は、背嚢(リュック)を下ろすと、中から羊羹や砂糖、タバコを取りだした。
「これは?」雪乃が手に取る。
「酒保(しゅほ:兵隊の売店)で買ってきたんだ。部隊も物資が段々不足してきて、あまりいいものが無かったよ……」
「ありがとうございます。もうすぐお風呂が沸きますから」
「ありがとう」
俺は、軍曹の階級章が付いた軍服を脱ぎ捨てると、風呂に浸かった。部隊の風呂は皆で入るために変な匂いがしているが、久々のきれいなお湯に体を沈めると、回想した。
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昭和16年、20歳だった俺・真武(まさたけ)は、徴兵検査を受けたのを機会に東京から地元に戻った。
東京では、書生(住み込みの弟子)として当時は珍しかっ