時、来たり

開く
2008-11-14

「はやく来てくださいね」
優子さんは会場へと戻っていった。
開始から既に数十分は経過している。
そろそろ出迎えを宿の方に任せて宴席に行っても
失礼にはならないだろうと思う。
しかし、なぜか宴席に行けない。
なぜだ?そう、俺は怖いのだ。
おそらく宴席に来ている「オオカミ様」は
晦日にお社で会った、あの少女だろう。
彼女はオオカミ様に間違いない。俺は既に確信を持っている。
しかし、あの時彼女は俺のことを覚えていなかった。
どのような形でオオカミ様が現世に顕在したのかは想像も出来ないが、
俺の事を覚えていないという事が衝撃だった。
オオカミ様が俺の事を覚えていないという事実。
この状況を冷静に分析すれば、彼女にとって俺は見知らぬ中年男性でしかない。
この宴席で出逢えたという事は、縁がまったく無いわけではないだろうが
現実的にこれからの状況を考えると目の前が真っ暗になってくる。

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