こころのたび

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2007-05-06

 僕が熊井佐代子(仮名)と知り合ったのは就職のため上京してすぐだった。高卒の安月給ではおしゃれなマンションなど住めず、下町の安アパートに住む事になった。
 バブル経済時代の地上げ屋も見逃したような古いアパートの風呂なし4畳半一間が僕の城だった。いまどきこんなボロアパートに住む者も少なく、空き部屋が多かった。そんなアパートに住んでいたのが佐代子と父親だった。
 僕が引越しを住ませ、同じアパートの住人のもとへ挨拶に行った。
ドアをノックしようとすると、しっかりしまって居なったドアが開いた。部屋の中には少女と畳の上で寝ている中年の男が居た。
「こんにちは。今度ここへ引っ越してきた上田俊夫(仮名)と申します。」
 少女は答えもせず、うつむいて黙っていた。一重目蓋とふっくらした頬は少し子供っぽいが中学生くらいに見えた。しかし髪の毛はぼさぼさでパジャマ姿のままなので、もう夕方なのに起きたばかりのようだった。父親らしい男は酔い潰れて寝ているのか、赤い顔でいびきを掻いていた。
 部屋の中は小汚くて酒の空瓶が転がっていた。何か腐ったような臭い

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