バンパイア奇譚

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2017-12-08




 あの日の夜、雪がパラパラと降り出した。僕は慎重に車を走らせていたのを覚えている。12月中旬にはめずらしく昼間降った雨が凍って、その上に雪が乗ってとても滑りやすい状態だった。
 あと少しで家に着こうとしていた時、女性が歩道を一人歩いているのが見えた。顔は見えなかったが、若そうな身なりをしている。ヒザまである黒いダウンを着て、もこもこした毛糸の帽子をかぶって、女の子にはめずらしくごついエンジニア・ブーツをはいていた。こんな真夜中に物騒だと思ったが、他人(ひと)ごとなのであまり気にせずに通り過ぎようとした。
 その時。突然その女性がパタリとうしろに倒れた。アイスバーンに足を取られたようには見えず、本当に言葉の通りに力なくパタリとうしろに倒れた。僕は、頭を打ったかと思い、すぐに車を止め駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
 近づいて見るとかなりの美人である。女性は僕の顔を見るなり涙をこぼしてヒックヒックと泣き出した。訳ありか、それとも打ちどころが悪かったのかは分からないが、取りあえず肩を抱いて助け起こした。

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