祖父は知っていた

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2009-10-13

いつからか祖父が灯油を買いに行くようになった。 
農業に一生を捧げた無口で朴訥とした人間で、体が弱くなってからはあまり外に出たがらなくなっていたので家族は驚いた。 
それまでは母が車でガソリンスタンドへ赴いていたのだが、手間が省けたと昼頃にふと思い出したようにポリタンクをキャスターに載せて家を出る祖父を見送った。 
しかしそれから暫くして、母が父にぼやくのを聞いた。 
「お義父さんいつもお金を多く請求するの。『少しくらいならいいじゃないか』って。うちだって切り詰めてやってるんだから。」 
父は苦笑いしていた。 
冬も終わろうかという或る日、トイレから戻ると祖父が俺の部屋にいた。 
遂にボケたのかと思い、出て行けと強く怒鳴った。 
萎縮して小さくなった背中に軽蔑と憎悪の視線を突き刺しながら言った、小汚い守銭奴め。 
祖父は一言も口にすることなく部屋を出た。 
その日以来、僅

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