新式かもじ屋

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 新式かもじ屋
  
 銀座松坂屋デパート階段下の休み椅子で、毎日々々蒼白い顔をして思案に耽ってゐるスマートな青年がありました。店内掃除人が階段を掃いては貯め、掃いては貯めるごみ箱を覗いてみては、ポケットから小型の手帳を出して何か書き止めてゐる様子が変なので、掃除人は流石に癪にさわりました。
「お前さん一体毎日何をしてるんで。此のわっしの怠惰表でも作ってるんですかい?」
 掃除人は言ひました。と、
「いや、いや……」
 青年はあわてました。
「そんなら……あゝ、うぬれ一体何をしてるんだ?」
 掃除人の眼は怒りに燃えたちました。今にも胸ぐらを取って表へ突き出しさうな見幕です。
「あッ、おぢさん待っておくれよ」
 そこで青年はそっと掃除人の耳へ唇をつけて囁くのでした。「……さういふわけなんだから、おぢさんがまんをしておくれよ」
 云って、


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