夜空に羽ばたく蛾のように
2018-05-12
(一)
「なあ、七海(ななみ)。あんた、キムラパンでアルバイトせーへん?」
母はそう言って、高校の入学式から帰って、晩ごはんを作ってくれた藤崎七海に聞いた。二重まぶたの母とは違って、七海は一重である。きっと、出て行った父に似てしまったのだろう。そのためか、母は七海に冷たかった。
「頼むけ。かあさんを助けてや」
母は、晩ごはんを食べて、違うパートへ行くための暫しの休憩をしていた。帰って来るのは、真夜中の零時を過ぎている。そして、朝の七時には眠い目をこすって、また朝のパートへ行くのだ。そのため、七海は小さい内から家族のまかないを引き受けていた。
なぜ、そんなに働くか聞いたことがあるが、母は弟に小さい頃から塾に通わせて、将来はいい所へ就職してもらって、面倒を見てもらうのだと言う。そのために、母は毎月積み立てをしていたから、食費を切り詰めざる負えなかった。
「まかないは、次子(つぎこ)に任せたら、よかとよ」
七海は素敵な名だが、妹の次子はおざなりの名前である。こ