真と真琴

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2015-01-29

田神 真22歳。都心の安居酒屋でヤケ酒をしていた。もう何度見たかわからないメール。
「今後の貴殿のご活躍とご健勝をお祈り申し上げます」--不採用通知。

「メール一発で不採用通知とは便利な世の中になったものですね」明らかにキャパ超えの椅子が並べられたカウンター席で呟く。
スマホを胸ポケットに突っ込む。

中学生の頃、事故で両親を亡くした真は北海道の叔父に引き取られ育てられた。
親代わりというには程遠い使用人のような生活ではあったが。高校を出て3年務めた工場が倒産し就職活動を始めて1年。そろそろ貯金も尽き果てようかというところ。正直こんなことをしている場合じゃないはずだが、今日は飲まずにはいられなかった。

「もう北海道に戻るしかないか…」。東京に一人で出てきた今、食わせてくれたことにだけは叔父には感謝している。だがあの使用人のような生活に戻るのは御免だった。朝早くから牛舎糞尿掃除、餌やり、そして日が落ちるまでの牧草の刈り取り加工。しかし戻れば食うに困る事態だけは避けられる。

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