母肉

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2013-02-18

静まり返った深夜の住宅街、家の前でタクシーらしき車の停まる音が聞こえた。
  酔っ払っているらしく呂律の回らない口調で『どうもお世話様でした』と言っているのが聞こえて来る……紛れもなく母、悠里の声だった。
 
 ―― バンッ ――
 
 車のドアが閉まる音に続いてエンジン音が遠ざかって行く。
  宿題がちょうど一区切り付いてリラックスしていた少年は、終電の時間をとっくに過ぎても帰宅しない母を少々案じているところだったのだが……無事、帰宅した様子に一応は安堵した。
 
 ―― ピンポンピンポンピンポン……♪ ――
 
 それも束の間、車のエンジン音が聞こえなくなったかと思えば今度はドアチャイムがけたたましく鳴り出したのだ……この時間には全く相応しくない鳴り方で。
  午前様となった母は最愛の一人息子である悠吾が出迎えるまで鳴らし続けるつもりらしく、一向に鳴り止む気配が無かった。

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