天使の子守唄

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天使の子守歌



山本里子は硝子戸を開けて眼下に展がるコンビナートの灯りにぼんやりとした眸をおとす。そこには、何千と言う光が、まるで恐山の夕暮れに燃える霊を招くローソクの火のように見える。その灯りは命を持ったように揺れている。風が走り炎を滲ませているのだ。灯りが揺れているように見えるのは、里子の眸が涙で潤んでいるからかも知れない。里子はあと少しで三十になろうとしているが、小柄で肉付きがいいから二十四五にしか見えない。頬に小さく沈む笑靨と僅かに斜視している眸が、可愛らしさと艶めかしさを漂わせていた。
ー辛いわ・・・こんな時、子供達がいてくれたらどんなに気が紛れるだろう。
母のところに預けている子供達のことを思う。新しい熱い涙が溢れ頬をつたっている。里子は涙をぬぐおうともせずに眺めている。その眸に灯りが溢れている。肩が小刻みに上下している。西から吹き上げてくる風は、工場の煙と化学製品からでる独特の饐えた匂いを、里子の住む小高い山に林立する市営住宅へと這い上がらせてきていた。裏山


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