筆下ろし

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2012-10-03

八月の青空の下、浜野朱美は鼻歌交じりに洗濯物を干していた。緑豊かなニュータウンを背景に幸せいっぱいのシーツをはためかせる。 
(ふふ、またすぐしわになるのにね) 
 思わず笑みがこぼれてしまうのは、今晩、夫の利之が出張から戻ってくるからだ。 
 そして、そんな夜は決まって抱き合うのが、ここ数年の約束事になっていた。家を空けがちな夫にしてみれば、「風俗に行かなかったぞ。浮気だってしていない」というつもりなのだろう。それが朱美は心からうれしい。 
 一人娘を寝かしつけてから夫と一杯やり、ほろ酔いになるそのひとときが待ち遠しいのだ。それは子供が大きくなっても大切にしたい夫婦の時間だった。 
(さてさて、今晩のおかずはなににしようかしら?) 
 夫の好物に頭をめぐらせたとき、階下から娘の美雪が声をかけてきた。 
「ママ! 電話だよ! パパから!」 
「あ、はーい!」 
 階段を下りると、美雪は玄関で靴を

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