由香里の夏休み

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1.覗き見     −− 由香里、もう子供じゃないもん

 今日から夏休み。朝寝坊した由香里は水着とテニスラケットを持って時任の叔父様の家へ向かった。自転車をこぎながら自然に"Every Little Thing"の曲を口ずさんでいる。坂の上から見ると街は強い日射しでキラキラ輝いている。遠くの地平線には重たげな積乱雲が見える。由香里の髪の間を吹き抜けていく風には甘いにおいが混じっている。
 自転車で10分も走れば時任家だ。
 時任家はこの地方有数の資産家で、広大な屋敷には手入れの行き届いた庭園と趣味で栽培している蘭のための温室がある。
 敏文が先代の後を継いで時任家の5代目の当主となったのは7年前のことである。また、当主になるためには妻帯することが条件であったため、時を同じくして婚約者の光枝と結婚した。新当主の就任祝いと結婚披露宴が同時に執り行われたため、祝宴は極めて盛大なものとなった。
 豪奢なウエディングドレスに包まれた光枝の輝くばかりの美しさを、由香里は今でもはっきりと覚えている。光枝は由香里の母の姉であり、その美しさと飾らない優しさ


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