父と私と。※修正版
2015-03-26
夕暮れが迫る駅前で、彼女はひとりで立っている。
ふと、駅の方へ目をやると、彼女のよく知っている顔を見つけた。
少し、仕事に疲れているように見えた。そんな父に駆け寄り、
「お帰りなさい」と声をかけ、彼女はニッコリと笑う。
少しでも父を元気にしたい、という理由もあったのだが、なにより、父が出張から帰ってきたという事実だけで、
彼女は笑顔を抑えられなくなる。
そして、涙も。
「ただいま」
久しぶりの父の声。とてもとても優しい声。
彼女は、今にも溢れようとしていた涙を手の甲で拭い、父の胸に飛び込んだ。
(お父さんの匂いだ)
父の胸に顔をうずくめ、そっと目を閉じる。昔から、父の胸でこうするのが彼女は好きだ。
「迎えに来てくれて、ありがとうな、唯」
父は、胸の中の大事な大事な宝物を受け止めながら言う。
「当たり前じゃない。ずっと、待ってたんだから」