盲目の女性(ひと)
2017-10-31
一
僕が、初めて彼女に出会ったのは小さな駅近くの横断歩道。彼女は、右手で白い杖を突いて、車が勢いよく突っ切る道の前で、渡れずに困ってた。そして、わずかな間げきをぬって、今まさに一歩を踏み出そうとしていた。
「危ない!」
その僕の声に反応して、彼女は足を止めた。車が通りすぎると、僕は横断歩道を急いで渡って彼女に声をかける。
「あのー」
「はい?」
「あなたのお手伝いをしたいのですが、いいですか?」
「はい、よろしく願いします」
そう言って、彼女は見えるはずのない白い瞳を、僕に向けて微笑んだ。いつもは、直ぐに目を反らしてしまうのに、彼女の瞳には不思議な引力があって、僕は見つめてしまった。だが、直ぐに目的を思い出し、彼女に訊ねる。
「手、いいですか?」
「はい」
彼女は、慣れた手付きで僕の肩に左手を置くと、僕のあとに付いて横断歩道を渡った。
「どこに行かれるんですか?」
「駅前のパン屋に行こうと