20191204-少女と出会った夏

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2020-01-23




(一)

 二〇〇〇年代、六月中旬。梅雨の曇り空の午後に、僕は地図も持たず、田舎道で背の低いワゴン車を走らせていた。清水足柄市のどこかだと思うが、今となっては定かではない。決して、金太郎の生地などというにぎやかなところではなく、寂しい場所だったので、たぶんどこかの峠道だと思う。
 知らない街へ就職して三年目。ついに、車を買った。中古で、それなりの性能だったが、はじめて自分の働いたお金で買ったので、うれしかった。ひまさえあれば、あちこちの道を探検していた。
 そのワゴン車に乗って、清水足柄市の峠道を走っていると、突然自転車に乗った少女が目に入った。あわててハンドルを切るが、驚いた少女の自転車は倒れてしまう。僕は車を止めて、駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
 少女は、怒った顔で僕をにらむ。ひざ丈の長いセーラー服を着て、田舎臭い身なりをしているが、百五十センチほどの華奢な身体に、長い髪をたらした美しい顔が座っている。僕は、見とれてしまった。
 彼女は、その美しい顔で、怒

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