図書館で知り合った文学少年と

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2016-04-10

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あたしは、かなり若い彼とベッドを共にしていた。
家出してきたという自称十六歳の男の子の悩みを聞いてやって、そのままなんとなく。
『なんとなくクリスタル』なんて小説があったっけ。

彼とは面識があった。
市立図書館で、あたしは司書補助のパートをしているのだけど、よく本を借りに来る子なんだ。
『北川淳史』と図書カードにあった。

「開高健が好きなんやね」

いつだったか、彼が『開口一番』という文庫を探してカウンターに来たのが最初の出会いだった。
彼の貸し出し履歴には開高の作品がずらっと並んでいた。
あたしは神経質そうなそのメガネの青年に微笑みかけて、検索の仕方を備え付けのコンピュータ画面で教えてあげた。

「横山さん?」

あたしの名札を見て、恐る恐る口を開いた。
白い頬に濡れたような赤い唇が印象的だった。
まだ穢れを知らない、みずみずしい輝き。

「北川君、あったよ。でも今借り出されてる。残念ね」


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