内臓泥棒
2007-07-22
白い壁の四角い部屋。天井には無影灯。ステンレス製の台には一頭の犬が仰向けに寝
かされている。犬の横にはメスや鉗子やガーゼが並ぶ。それを取り囲んで薄いモスグ
リーンの術衣とマスクをつけた獣医が数名。しかしここではけたたましい心電計音や
血圧計の音は聞こえなければ麻酔ガスの独特な臭気も感じない。むやみに部屋を冷や
す空調機がうなりを上げているだけである。ここは手術室ではなく病理解剖室なので
あり、病理専門の獣医が支配する場なのである。
数十秒の黙祷。おもむろに下顎先端から下腹部まで皮膚にメスが入る。グルカナイフ
のような剥皮刀でさらに皮膚を左右に剥がしてゆく。白い淡雪のような皮下脂肪が現
れる。腹壁をピンセットで持ち上げメスで切り込みを入れる。切り込みにハサミの刃
を入れ腹筋と腹膜を上下方向に切り開くと腸間膜と脂肪に包まれた腹部臓器が露出す
る。最初に見えてくるのは脾臓である。脾臓を脂肪から切り離して体外に取り出す。
次に直腸を引っぱり出し、鉗