待人鬼女

開く
2009-08-14

 アパートから、ひと駅くらい離れたカフェでバイトをするようになった俺は、近道があることに気付いた。
 それはいつも通っていた商店街を、少し外れた道だった。舗装されていない細い小道で木々が生い茂り、ちょっとした森のようになっている。
 途中で少し開けた場所があり、昔は神社でもあったのか、鳥居の土台のような石があり、側に大きな木が立っていた。
 俺が彼女を見かけたのはその木の袂だ。ほんの一瞬。顔もほとんど見えないはずの一瞬だったのに、恐ろしいくらい綺麗な人だとわかった。髪を結い上げ、艶やかな着物姿だった。時代劇で見る、お姫様といった感じだ。
 はっとして彼女の方を見たが、姿はなかった。ただ木が佇んでいるだけだ。気のせいだったか……?
 その時、草葉を揺らして風が流れ、それに乗って微かにあるふたつの匂いを感じた。
 ひとつはお香の匂いだ。線香とかそういうものではなく、香道とか、今流行のアロマとかそんな感じの。
 もうひとつはなんの匂いだったろう? 昔、子どもの頃によくこの匂いを嗅いでいたような……


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