さくら
2018-10-28
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一
さくらの花びらが散る庭園で、夜空に舞う天女をみました。
その出で立ちは薄衣を羽織って、下にはなにも身に着けてはおりませんでした。襟足ほどの髪は、美しい銀髪で、所々はねておりました。白い肌に真っ赤な口紅。それは、この世のものとは思えないほど美しい姿でした。私は、ただそれを見ておりました。なにかに取りつかれたように……。
やがて、その女性は屋敷の中へと消えてしまいました。そして、その跡には濡れた花びらが、幾重にも折り重なっておりました。その香りをかぐと、なんとも言えない甘い蜜の味がします。ひとひらの花びらを手に取ると、真っ赤な色に染められました。ああ、これがうわさに聞く蜜蝋で出来た口紅なのだな。私は、暫しの間その香りに酔っておりました。