保健所から来た男
2004-11-03
ストーブをたいた部屋で、私は一人、留守番をしていた。熱はほとんど引い
ていたが、用心のためにと学校を休まされたのだ。昼間のテレビは、奥様向け
のくだらない番組しかやっていなくて、私は暇を持て余していた。
ピンポーン
突然のベルに、飛びあがりそうになった。おそるおそる玄関先へむかうと、
閉ざされた扉の向こうで、男の人の声がした。
「こんにちはー。ホケンジョのものですけど」
保健所。それは幼かった私にとって、野良犬や野良猫が連れていかれる場所、
というイメージしかなかった。うちに犬はいなかったし、そんなところに用が
あるはずもない。普段なら決してそんなことはしなかったと思うのに、その日
に限ってどうして鍵を開けてしまったのだろう。あれから10年以上たつ今でも、
時々不思議に思う。するすると引き寄せられるように、私は扉の鍵を