ある秋の日

開く
2018-10-09



 空には雲がポツリポツリとあるだけで、すがすがしいまでの秋の日の日曜日。私は川沿いの道を歩いて買い物に出かけた。やっと過ごしやすい季節になって、心まで落ち着いている気がする。
 ふと、川で釣りをしている男を見つけた。その人はワイシャツの袖をめくって腕組をして、コックリコックリとうたた寝をしている。その時、私はなぜかいたずら心が起こって、大声で叫んでしまった。
「お客さん。引いているよ!」
 私の声に飛び起きた男は、釣り竿を力まかせに、ぐいっと引いた。驚いたことに、針には大きな鯉が掛かっていたのだ。私は、あわててタモ網を取ると鯉をすくった。
「いやー、ありがとう。危うく大物を逃すところだったよ」
 その男は、短髪に薄っすらと無精ひげを生やしていて、白い歯を見せて愉快そうに笑った。
 私は、お礼を言われたことをこれ幸いに、おねだりをしてみた。
「その鯉、私も食べたいなー」
「あ、いいですよ。僕はどうせサバクことはできないし、どうぞ持って行ってください」

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