おふくろ
2007-03-20
夜、弟から電話がかかってきた。「おふくろのことなんだけど」と弟がいった。「一つアイデアがあるんだ」
「どんな?」とわたしは訊ねた。
おふくろは今年七十六になる。母はずっと一人で、二DKの公団住宅に住んでいる。おふくろは膝が悪い。
なんでも膝の軟骨がすり減って、歩くのがだんだん億劫になってきているそうだ。目も悪い。なんだか最近は霞んでよく見えないという。
だから、わたしと弟は、ずっといってきた。一緒に住もうじゃないか、と。わたしか弟の家で、そうでなければ、半年ずつ家を替わって。
わたしたちがそういうたびに、おふくろはこういうのだった。
「あんたたち若い者とは、暮らし方も考え方もちがう。遠慮や気兼ねをして暮らすより、あたしはひとりが気楽でええ」
「しかしね、母さん。はっきりいって、もう歳でしょうが。いつ倒れるか、わからない。だから、そう意地をはらないで、一緒に暮らそうじゃないか」
「気持ちだけ受けとっとく