ひぐらし
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夏休みの寝苦しい朝だった。
ぼくは、下半身に違和感を感じて目が覚めた。
もう七時を回っているじゃないか。
ぼくは、階下に下りて行った。
風呂場の横の洗濯機の置いてあるスレートで囲った場所に汚した下着をこっそり持っていくつもりだったんだ。
まさか、高三にもなって夢精をしてしまうなんて。
と、すすり泣くような声を聞いたような気がした。
「ああっ。くぅっ」
子犬の鳴くような、痛みに耐えるような・・・
そっと流しのあるほうから、洗濯場の方に回ろうとしたとき、洗濯機の前にたたずむ女の姿が目に入った。
「なおこだ」
彼女は横山尚子といって、父の後妻に入ろうとしている女だ。
母が死んで、はや六年が過ぎ、弁護士の父はさみしさからか、事務所のこの女とねんごろになったらしい。
そして彼女はおしかけてきたのだ。
年の頃は三十半ばで女ざかりとでも言うのだろうか。
弁護士事務所に勤めているだけあって、ケバさはない。むしろ地味だ。