引っ越した先のぼろアパート

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2009-06-23

引っ越した先のぼろアパートには、ありがたくない先住者がいた。 
戦災をのがれて生き残ったという、古き昭和の面影を残すこの建物にじつにぴったりな、 
うらさびしいその存在。 

荷物をはこびこむとき、そいつは部屋のすみに座ってうつむいていた。 
かべのほうを向いて。まるで無言の抵抗をこころみるように。 

こころのなかで、 
「ごめんよ。君はもうこの世界の住人じゃないんだよ」 
と、手をあわせながら作業をすすめた。 

帰るといつもそいつは部屋にいた。かべのほうを向いて、かなしそうにしていた。 
寝るときもそいつは部屋のすみっこにいて、べつになにか悪さをするわけでもなかった。 
もしかしたら、部屋にいくらか残ったままだった、 
そいつのものと思われる遺留品が心残りで、成仏で

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