父親殺し
2004-09-10
時刻はすでに11時近かった。雑貨屋の表戸をどんどんとせわしなく叩きながら、
泣き声で「おばさん、おばさん」と呼ぶ声には聞き覚えがあった。すでに就寝して
いた雑貨屋のおかみは起き上がり、戸をあけて夜中の訪問者を迎えいれた。
それは近所の市営住宅に住む顔見知りの女であった。女はおかみにしがみつくなり、
「おばさん、父ちゃんを殺しちゃった」
と言った。おかみは絶句した。
実はこうなるかなり以前、おかみはこの女から「秘密」を聞かされて知っていたの
である。
「あんたら夫婦、だいぶ歳が違うみたいだけど……」
そう水を向けると、彼女は意外なほどあっさり答えた。
「だって、実の親子だもの」と。
そして、また妊娠したらしくてこのところ気分が悪いのだ、とおかみにすがるよう
にして歩いた。
彼女はすでに半べそ顔だった。16で妊娠して、次々に5人産んだ。
その後に妊娠中絶を4回やった。今度もまたやることになるだろうが、あ