富嶽遠景

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悦子は娘の美香に乳を含ませながら横になってうとうととしていた。

昼下がりの春光がサッシュのガラス窓越しに柔らかく差し込み、母子二人を暖めていた。

その姿を柱の影から盗むように見る者がある。
悦子の甥の隆之介だった。
中学生最後の春休みに彼は、母親の妹であるこの若い叔母の家に遊びに来ていた。

悦子にとって、美香は苦労の末に授かった女の子だった。
夫の定雄が、外務省の役人ということもあって、家にいることが少なく、夫婦がともに暮らすという雰囲気が結婚当初より数えるほどしかなかった。
悦子は、だから甥の隆之介を小学生のころからかわいがり、結婚してからも学校が長期の休みとなると、この富士山麓の瀟洒な住まいに招いていた。

隆之介としても、やさしく聡明な叔母に勉強を教えてもらえる上に、おいしくめずらしい洋食のご馳走を毎晩、振舞ってもらえるとあって、口うるさい母親の下を離れて過ごすほうが楽しかった。
実際、隆之介の母の幸子と妹の悦子では、性格が全く異なっていた。
母は倹約家で、口うるさく、隆


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